今回の相談者
相談者:残された子供の祖母
家族構成:母親(30歳)との二人家族。父親とは音信不通
今回のケース:母親が亡くなり、7歳の子供だけが残された場合の受け取れる遺族年金についての相談
残された子は、どのような年金を受け取れるか?
30歳のシングルマザーが無くなり7歳の子が残されました。元夫との音信はありません。相談者は本人(死亡者)の母です。死亡日以降、子は相談者(子の祖母)と一緒に生活をしています。
本人は死亡当時国民年金加入中だったため、遺族基礎年金は支給されます。(保険料納付要件を満たす必要があります)
遺族厚生年金は受け取れないか?
遺族基礎年金に加えて、遺族厚生年金を受け取るためには、遺族厚生年金の受給要件を満たす必要があります。
死亡診断書によると自死。話によると、1年ほど前からうつ状態で悩んでいた。しばらくは心療内科に掛かっていたが中断、その後仕事もできなくなり退職、将来の不安を抱えながらの生活の末、今回の状態に至ったとのことです。
(遺族厚生年金の受給要件)
厚生年金保険法58条1項1号「厚生年金の被保険者が死亡した時」。今回は、厚生年金加入中の期間の死亡ではないので、これには該当しません。
しかし58条1項2号では、「被保険者であつた者が、被保険者の資格を喪失した後に、被保険者であつた間に初診日がある傷病により当該初診日から起算して五年を経過する日前に死亡したとき。」とあります。
要は、「厚生年金加入中の病気やけが原因で、退職後に初診日から5年以内に死亡した場合」は遺族厚生年金の受給要件を満たすということです。(保険料納付要件を満たす必要があります)
今回のケースに当てはめると、確かに厚生年金の被保険者期間中に心療内科に掛かっています。しかも、初診からおよそ1年後の死亡です。後は「初診日の傷病と死亡原因との因果関係」です。年金事務所からは、初診日の証明を提出するように言われました。書類は「受診状況証明書」で、通常、障害年金を請求する際の初診日の証明に使用するものです。
そこで、当時受診した心療内科に事情を説明し、うつ病と自死に至った関連性について、想定される範囲で記入いただくようお願いしました。
遺族基礎年金と遺族厚生年金が決定!
時間はかかりましたが、遺族基礎年金に加えて遺族厚生年金も支給されることになりました。うつ病が原因による死亡と認められたわけです。
厚生年金の加入期間は6年程度ですが、そのままの月数で計算すると遺族厚生年金の額が過小になるため、25年(300月)にみなして計算される仕組みになっています。
その結果、遺族基礎年金約78万円と遺族厚生年金約22万円、併せて100万円が残された子に支給されることになりました。
遺族年金と未成年後見・養子縁組の影響について
決定した遺族基礎年金と遺族厚生年金は、原則として、18歳年度末(高校卒業)まで、(子に障害があれば20歳まで)受け取ることができます。
ここで、今後の子への教育や生活などについて考えます。
未成年の子が遺族として残された場合、親権者が必要です。親権者がいいない場合、裁判所の判断で、未成年後見人が選ばれることになります。未成年後見人が親の代わりとなって、その子の教育や監護、財産の管理、学校などとの契約を行います。今回の場合、本人(死亡者)の母、子から見ると祖母が未成年後見人となる可能性もあるでしょう。
問題はその先です。祖母が未成年後見人となった後、養子縁組を行うこともあると思います。養子縁組による影響です。
子と祖母が養子縁組をすると、「生計を同じくするその子の父若しくは母があるとき…」、に該当し、子に支給されている遺族基礎年金は停止されます。
この条文は、納得しがたいですよね。こういった祖母等との養子縁組まで想定されているのか疑問です。事例も多くないので、法改正に至らないのが実情だと考えます。
まとめ
遺族基礎年金のみ決定しても、前段の理由により停止される可能性があるため、何としても遺族厚生年金を受給する必要がありました。
しかし、リスクもあります。もし遺族厚生年金の請求が認められなかった場合、最初に戻って遺族基礎年金の請求に切り替える必要があり、年金の支払いまでさらに時間を要します。
請求者には事前にその説明をし、納得いただいたうえで請求する必要がありました。
今回の事例は、請求方法が選択できること、年金以外の知識が必要な点で大変勉強になった事例でした。遺族基礎年金のみの請求で終わってしまうのは大変残念なことです。
(遺族厚生年金の受給要件)58条1項2号「被保険者であつた者が、被保険者の資格を喪失した後に、被保険者であつた間に初診日がある傷病により当該初診日から起算して五年を経過する日前に死亡したとき。」を使って遺族厚生年金を請求にチャレンジしたことに意義があったと思います。
同種の事例を簡単に紹介して終わりにします。
(遺族厚生年金の受給要件)58条1項3号に「障害等級の1級又は2級に該当する障害の状態にある障害厚生年金の受給権者が、死亡したとき。」とあります。(ここでいう1級又は2級とは障害年金の等級であり、障害者手帳の等級ではありません)
「障害等級1級又は2級の方が亡くなった場合は遺族厚年年金を受給できる」ということは、障害等級3級の方が無くなっても受給できないのかというと、そうとは限りません。
障害等級3級の方がその障害が原因でなくなった場合、「亡くなった当時は2級以上であった」と判断され、遺族厚生年金が決定されることもあります。
繰り返しになりますが、必ず受け取れるものではありません。
しかし、受け取れる可能性があれば、そこに携わる人間は制度を正確に理解し、受給に結び付くよう努力すべきだと思います。請求者は、決定までの期間や費用などのリスクも踏まえて検討する必要があります。
■参考:本文中に提示した法令・条文は「e-gov法令検索」で参照することができます。
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